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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)44号 判決

東京都新宿区岩戸町二六番地

控訴人

内田興業株式会社

右代表者代表取締役

内田とよ

右訴訟代理人弁護士

井上四郎

井上庸一

同都同区三栄町二四番地

被控訴人

四谷税務署長

右指定代理人

小沢義彦

棚橋勉

高梨鉄男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四六年三月三一日控訴人の昭和四三年一〇月一日から昭和四四年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定のうち所得金額一〇三万五七七〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張及び証拠の関係は、控訴代理人において甲第一七ないし第二〇号証を提出し、当審証人内田三郎、同内田伊三雄及び同白田清松の各証言を援用し、被控訴代理人において右甲号各証の成立をいずれも認めると述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するのであるが、その理由は左記のほかは原判決の理由の説示と同じ(ただし原判決一九丁裏一〇行目に「三筆」とあるのを「四筆」と訂正する。)であるからこれを引用する。

1  成立に争いのない甲第一七ないし第二〇号証によれば、右訂正して引用した原判決にいう千葉県の土地四筆(千葉県長生郡睦沢村川島字台町一九〇二番の二、五、六及び八の各山林)につき、昭和五一年六月一二日に同年五月一日の代物弁済を原因として伊三雄から三郎に対する所有権移転登記手続が経由されていることが認められ、当審証人内田伊三雄及び同内田三郎は、右は伊三雄が三郎から預っていた三郎の退職金中の一〇〇〇万円を三郎に返済する代りに代物弁済として右土地の所有権の移転したものであると供述する。しかし、原判決の認定するように、控訴人提出の甲第六ないし第九号証は本件更正後又は本訴提起後に三郎に対する退職金一五〇〇万円の損金算入を認めてもらうために作成されたものであり、右千葉県の土地についても、当初控訴人名義で購入されたが本件更正後になって真正な登記名義の回復を原因として伊三雄名義に改められ、次いで本訴提起後になって三郎を権利者、伊三雄を債務者とする債務額一〇〇〇万円の抵当権設定登記がされたものであるところ、さらに記録によって明らかな本件控訴提起の日である昭和五一年六月一〇日の直後に右代物弁済を原因とする所有権移転登記がなされたこと、伊三雄は証人として、原審においては三郎に一〇〇〇万円渡すには三郎が本妻のもとに戻るのが先決問題であると供述していたが、当審においては三郎が本妻のもとに戻るのはもはや無理であると考えて右代物弁済をした旨供述し、また原審においては三郎に一〇〇〇万円を返すときは右土地を売却して一〇〇〇万円と利息を返すつもりであると供述していたが、伊三雄及び三郎の当審における各証言によると右土地の時価は優に一八〇〇万円を超えると認められ右時価は一〇〇〇万円と利息(前掲甲第一七ないし第二〇号証によると前記抵当権設定登記では被担保債権の利息は年五分五厘とされている)の合計額を大巾に上廻るが、これをそのまま代物弁済に供したこととなること、三郎は当審において、自分がまだ本妻のもとに戻っていないのに伊三雄が代物弁済をした理由は伊三雄に聞かなければ分らないと証言していること、これらの点を考慮すると、右代物弁済を原因とする所有権移転登記は単に控訴審における訴訟の進行を控訴人に有利にするためになされたものとの疑いが強く、これによって、さかのぼって伊三雄が控訴人の三郎に対する退職金支払債務を引受け、三郎にこれを弁済し、三郎からそのうち一〇〇〇万円の寄託を受けたという控訴人主張の事実を推認することは困難というべきであり、控訴人の右主張にそう当審における証人内田伊三雄及び同内田三郎の各証言は、にわかに採用しがたいところである。

2  当審証人白田清松の証言は、原判決の認定判断を左右するものではない。

そうすると、本件控訴は理由がないから棄却を免れず、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 滝田薫 裁判官 桜井敏雄)

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